東京高等裁判所 昭和58年(行コ)52号 判決 1983年11月16日
埼玉県八潮市鶴ケ曽根一二九七番地八潮中学校内
原告
伊藤隆男
同県越谷市赤山町五丁目七番四七号
被告
越谷税務署長
和氣誠一
右指定代理人
金丸義雄
同
星川照
同
戸川忠志
同
佐藤文夫
主文
一 本件訴えを却下する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の申立
一 原告
被告が原告に対し昭和五六年八月一八日付でなした同五五年分所得税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
二 被告
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告は昭和五六年三月二日、同五五年分所得税について、給与所得金額七一万円、雑所得金額二七〇〇円、所得税額四万二二〇〇円及び還付される税金一六〇〇円とする旨の確定申告をした。
(二) 原告は同五六年七月三〇日被告に対し、右所得税額から二一一〇円の外国税額控除をし、還付される税金を三七一〇円とすべき旨の更正の請求をしたところ、被告は同年八月一八日付で右更正をすべき理由がない旨の通知(以下「本件処分」という。)をし、これに対する原告の異議の申立に対しても同年一一月一二日付でこれを棄却する旨の決定をした。そこで原告は国税不服審判所長に対し、審査請求をしたところ、同五七年五月一九日付で、これを棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)がなされた。
2 しかしながら、本件処分は次のとおり違法である。すなわち、原告の所得税額四万二二〇〇円の中には、自衛隊の防衛関係費(人件糧食費、基地対策費、装備品等購入費、その他の費用)に充てる分二一一〇円が含まれている。しかしながら、自衛隊は、戦争の放棄、軍備及び交戦を否認した憲法九条の規定に違反するから、日本国政府はかかる防衛関係費に充てる税金を国民に課することはできない。したがって右防衛関係費に充てられる二一一〇円は日本国以外の国が課した所得税であって、所得税法九五条所定の外国税額控除の対象となるから、これを原告の所得税額から控除すべきであるとする原告の更正請求は理由があるにもかかわらず、右請求を認めなかった本件処分は違法である。
3 よって原告は本件処分の取消しを求める。
二 被告の本案前の抗弁
本件訴えは出訴期間徒過後に提起された不適法な訴えである。すなわち、本件訴えは、昭和五七年九月一日東京簡易裁判所に提起され、同月八日東京地方裁判所に移送され、同裁判所で審理の上請求棄却の判決を経て、当裁判所に係属していた本件裁決取消請求控訴事件(当庁昭和五八年(行コ)第五号「原審・東京地方裁判所昭和五七年(行ウ)第一四〇号」-昭和五八年一〇月一二日訴えの取下げにより終了)に併合提起されたものであるところ、出訴期間の遵守については本件裁決取消しの訴えを提起した時に提起されたものとみなされるのであるから(行訴法二〇条)、本件訴えは、本件裁決取消しの訴えの提起日である前記昭和五七年九月一日に提起されたものとみなされることとなる。ところが本件裁決書の謄本は同年六月一日原告に送達され、原告は同日本件裁決があったことを知ったものであるから、本件訴えの出訴期間は、同日を初日として起算し、三か月の期間の末日である同年八月三一日までであると解すべきである(行訴法一四条一項、四項)。そうすると、同年九月一日に提起したとされる本件訴えは出訴期間徒過後に提起された不適法な訴えであるというべきである。
三 本案前の抗弁に対する認否
右抗弁事実中、原告が昭和五七年六月一日本件裁決書の謄本の送達を受けたことは認めるが、出訴期間徒過の主張は争う。
四 請求原因に対する認否
1 請求原因1(二)の事実は認める。
2 同2は争う。
第三証拠関係
当審記録中の証拠に関する目録を引用する。
理由
一 被告の本案前の抗弁について判断する。
請求原因1(二)の事実及び本件裁決書の謄本が昭和五七年六月一日原告に送達されたことはいずれも当事者間に争いがない。次に原告は国税不服審判所長を被告として、昭和五七年九月一日東京簡易裁判所に本件裁決取消しの訴えを提起し、同月八日右訴訟が東京地方裁判所に移送されたこと(同庁同年(行ウ)第一四〇号)、同裁判所は昭和五八年一月三一日原告の右請求を棄却する判決を言い渡し、原告は当裁判所に控訴の申立(当庁昭和五八年(行コ)第五号)をしたこと、原告は行訴法二〇条、一九条の規定に基づき、当審に至って、本件訴えを右本件裁決取消しの訴えに併合して提起したものであることは、いずれも本件記録上明らかである。
以上の事実関係によると、本件訴えは、同法二〇条の規定により本件裁決取消しの訴えが提起された時に提起されたものとみなされるので、その提起日は昭和五七年九月一日であるということになる。
次に本件訴えの出訴期間は、同法一四条一項、四項の規定に従い、審査請求に対する本件裁決があったことを知った日を初日として起算した三か月の期間であると解すべきところ(最高裁昭和五二年二月一七日判決・民集三一巻一号五〇頁参照)、原告は同五七年六月一日本件裁決書の謄本の送達を受けたことにより、同日本件裁決のあったことを知ったものと認められるから、出訴期間の最終日は右同日を初日として起算し、三か月の期間の末日に当たる同年八月三一日となること暦日上明らかである。そうすると、前記のとおり同年九月一日に提起したとされる本件訴えは出訴期間徒過後の提起にかかる不適法な訴えであるというほかない。
二 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件訴えは不適法として却下すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木潔 裁判官 鹿山春男 裁判官 岡山宏)